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コロナ禍での開催の意義、より強く

2021年10月25日

73回正倉院展(特別協力・読売新聞社)が30日、奈良市の奈良国立博物館で開幕するのを前に、西川明彦・宮内庁正倉院事務所長(60)と井上洋一・奈良国立博物館長(64)に、コロナ禍での開催の意義や今回の見どころなどについて、対談してもらった。(聞き手・関口和哉)

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(写真左)
井上洋一(いのうえ・よういち)
奈良国立博物館長
1956年、相模原市出身。国学院大大学院文学研究科日本史学専攻博士課程後期単位取得。専門は考古学。20214月から現職。

(写真右)
西川明彦(にしかわ・あきひこ)
宮内庁正倉院事務所長
1961年、京都市出身。京都市立芸術大大学院美術研究科絵画専攻修了。専門は工芸学。2017年から現職。
――コロナ禍の中で、2回目の開催になります。

西川 昨年、開催して実感したことがある。いかに世界中が芸術を求め、渇望しているかということ。最初の正倉院展は1946年、戦争で疲弊した国民を励ます目的があった。その理由付けが年々薄まっていると考えていたが、そんなことはなかった。改めて開催する意義を強く感じた。

井上 まさにその通り。正倉院展を心待ちにしている人がいることは、とても大切。正倉院展は秋の風物詩になっている。しっかりコロナ対策をしながら楽しんでもらいたい。
正倉院宝物は品がよくセンスがある。その一部は、はるか西方から大陸を横断し、海を渡って日本にやってきた。宝物を届けた人たちの熱き思いを感じ取ることができる。見ることで心豊かになってもらいたい。

西川 前回に続き、入場は日時指定制だが、混雑緩和にはこれが望ましいのかも。今後、公益性を担保しつつ、入場券に何かプレミアムが付いてもいい。

井上 いろんな入館の仕方があってよい。コロナで展覧会のあり方自体が大きく変わってきた。

――今回の正倉院展の見どころは。

西川 正倉院はシルクロードの終着駅と言われるが、宝物の9割は日本製。新しいものをどんどん採り入れたことがわかる。今回は筆の特別調査を紹介しており、墨や紙、硯(すずり)を出展する。当時の宮廷文化や生活に思いを巡らせてもらえれば。

井上 写経する際の絹の腕カバーのように使用跡のあるものなど、天平人の息遣いが伝わってくる宝物もある。

――おすすめの宝物は。

西川 「漆金薄絵盤(うるしきんぱくえのばん)」。日本製だと思うが、絢爛(けんらん)豪華さは、正倉院宝物でも屈指のもの。自然界でこんな色遣いはまずない。強烈なインパクトで、仏教への憧れや畏れを伝えたのでは。

井上 私は「螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)」。1985年、東京国立博物館に任官された年の正倉院展で見た思い出がある。華やかな意匠は西方への大いなる旅をイメージさせ、ロマンをかきたてられる。永遠のスター、というところだね。

――西川所長は今年度で定年を迎えるため最後の正倉院展、井上館長は今年4月に着任して最初の正倉院展になる。

西川 1300年近く伝えられてきたものを次に伝えることができた。まだ走りきっていないが、マラソン選手のゴール直後の気持ち。

井上 コロナ禍でも何とか無事に正倉院展を開催したいという思いが強い。ワクワク感と緊張感が入り乱れている。とにかくこの素晴らしい宝物を多くの人に見ていただきたい。

20211019日付読売新聞奈良版より掲載)

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