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メアリー研究員のとっておき奈良
五重塔 摩天楼のよう
写真=五重塔が見える猿沢池の前で、「奈良は今まで暮らした中で最も美しい街」と語るメアリーさん(奈良市で)
第73回正倉院展が10月30日から11月15日まで、奈良市の奈良国立博物館で開かれる。天平時代、奈良の都は多くの外国人でにぎわう国際都市だった。古都を歩き、その面影を感じるのも正倉院展の楽しみ方の一つ。米ニューヨーク市出身で奈良国立博物館研究員のメアリー・ルインさん(36)に、とっておきのスポットを案内してもらった。
――最初は猿沢池ですね。天平時代に造られた美しい人工池です。
これまでニューヨークや北京などいろんな街に住みましたが、奈良は最も美しい。特に猿沢池の周りは「ザ・奈良」です。池の向こうに興福寺の五重塔がたたずみ、私にとって奈良を象徴する風景です。
五重塔は高さ50メートルほどですが、天平時代に建立された当時、人々にはニューヨークの摩天楼のように高く見えたのでは。私も初めて見上げた時、圧倒されてエンパイアステートビルより大きく感じました。
――天平の奈良には多くの外国人がいました。唐や新羅、インドから来た僧や、ペルシャ出身の役人もいたそうです。
正倉院宝物にも、シルクロードを通じた文化交流の跡や、コスモポリスの創造性が感じられます。私は正倉院展で展示解説を英訳する仕事を担当します。外国人の方々にも宝物をわかりやすく伝えたいです。
――次は高台にある白毫寺(びゃくごうじ)ですね。帰りにお土産店も教えてください。
白毫寺は境内から奈良の市街地が一望でき、昔の平城京のにぎわいを想像したくなります。そんな景色を米国の両親や妹たちにも体験してもらおうと、寺社を巡る時はいつもスマートフォンを持って、テレビ電話で見せてあげています。
お土産なら近鉄奈良駅近くの活版印刷のお店「活版工房丹」。正倉院宝物をデザインした絵はがきがあり、喜ばれますよ。
――コロナ禍が収まれば多くの外国人にも来てほしいですね。
私は今、興福寺国宝館の千手観音菩薩(ぼさつ)立像をテーマに大学院の博士論文を執筆中です。この像の前に立つと尊さに心を打たれます。いつか米国の家族や友人にも見せたいですね。
伝統の筆作りに挑戦
奈良の伝統工芸品、奈良筆を製造販売する「奈良筆田中」では、筆作りを体験できる。メアリーさんも挑戦してみた。
筆作りの技術は奈良時代に大陸から奈良に伝わったという。奈良筆は何種類もの動物の毛をまぜて穂先を作るのが特徴。
店主で伝統工芸士の田中千代美さん(68)から作り方を教わった後、メアリーさんは筆の軸に穂先をつなぎ、形を整えた。完成した筆を手に「いい記念になります」。
不定休。筆作り体験は要予約。(電)090・8483・4018
正倉院展おすすめ宝物
写真=螺鈿紫檀阮咸(らでんしたんのげんかん)
私はウェス・モンゴメリーやドク・ワトソンといった米国のギタリストの曲が大好き。だから正倉院宝物の楽器にとても興味があります。
阮咸は背面に2羽のインコがデザインされた印象的な楽器です。撥受(ばちう)け部分には、この楽器を弾く女性と、それに聴き入る人々の姿も描かれていて、まるで演奏会の一場面のよう。天平の人々はどんなメロディーを楽しんでいたのでしょうね。
◇メアリー・ルイン 1985年生まれ。幼い頃、米国の美術館で東洋の仏像を見て仏教美術に興味を持った。現在、カリフォルニア大バークレー校の大学院に在籍。2019年から奈良に住み、奈良国立博物館研究員を務める。米大リーグのニューヨーク・メッツの大ファン。
◇文・関口和哉 写真・中原正純