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奈良博研究員が語る 正倉院展のひみつ
今年の正倉院展を担当した奈良国立博物館主任研究員・三本周作さんから正倉院宝物の魅力について語っていただきました。
今年の正倉院展 宝物が投げかける謎にぜひチャレンジを
10月28日から、奈良国立博物館で第75回正倉院展が開催される。正倉院展といえば、天平文化の華やぎを伝える美しい宝物に出会える場、というイメージをお持ちの方が多いのではないだろうか。まさにそのとおりで、今年の正倉院展も、きらびやかに装飾された工芸品の数々が展示会場を彩ってくれる。ただ、さらに一歩踏み込んで、「これはなぜこのような形に作られているのか?」「どうやって使われたのだろうか?」と疑問をもってみると、また違った面白さに気がつくことがあるかもしれない。このことを、今年の正倉院展の展示品を例に、少しお話したい。
まず、「紫檀小架」(南倉54)を見てみよう。横長の六角形の台の上に鳥居のような形をした支持具らしきものが立てられている。この上下に、先端がくるっと巻いた蕨手状(わらびてじょう)の一対の受けが付いているので、ここになんらかのものを掛けたと想像される。この宝物の用途に関しては、筆掛け、鏡台のほか、掛け軸などの巻物状のものを掛けたのではないか、との説があるが、確かなところはわかっていない。高さ46cm、笠木の長さ37cmと寸法は小さく、また受けも象牙製の華奢なものなので、重たいものや大きいものにはなじまない。シタン、象牙、タイマイといった高貴な素材を使った贅沢なつくりであるだけに、この宝物に何が掛けられたのかという謎にますます心惹かれる思いがする。
次に、これも今年の展示品の目玉である「青斑石鼈合子」(中倉50)を紹介しておきたい。これは「鼈」すなわちスッポンの形を、蛇紋岩という石材から彫刻したもので、15cmほどの小さな品ながら、そのリアルな彫刻表現には目を見張る。目には赤く透き通ったコハクの玉が嵌められ、このスッポンに命が吹き込まれているかのようだ。さて、この品は単なる置物ではない。実はおなかの部分が外れるようになっていて、これが八稜花形の皿状の容器になっている。つまりこの品はなんらかのものを収めておく容器だったようだ。ところで、甲羅の部分をよく見ると、反転した北斗七星の模様が表されていることに気づく。古代中国では、北斗七星は人の命運を支配するという考え方があり、亀(スッポン)も宇宙を体現する存在として神聖視されていたという。こう見てくると、この一見愛らしいスッポン形の容器も何か特別なものを収めたのではないかと思えてくる。おなかの部分の皿が、単なる円形ではなく八稜花形に作られているのも、内容物を際立たせる演出をねらった仕様なのかもしれない。一説に、仙人になるための薬(仙薬)が収められたのではないかといわれる。魅力的な説だが、果たして実際はどうだったのだろうか。
まだまだ興味深い宝物が、今年も目白押し。是非ご来館いただき、宝物にまつわるさまざまな謎に挑んでみていただければと思う。
(奈良国立博物館学芸部主任研究員:三本周作)