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【2021】正倉院展 短歌・俳句コンクール入賞作品発表(短歌の部)
正倉院展で感じたこと、宝物や天平時代への思いを詠む「正倉院展短歌・俳句コンクール」(主催・奈良国立博物館、読売新聞社、読売テレビ、協賛・セキ、協力・宮内庁正倉院事務所)の入賞作品と入賞者40人が決まった。短歌には一般とジュニア(小中高校生)あわせて999人から計1727首、俳句には1244人から計2180句の応募があった。応募作品は、正倉院事務所の西川明彦所長、奈良国立博物館の井上洋一館長らが審査した。
短歌 ジュニアの部
最優秀賞 |
肘掛けの少しへこんでいる所あなたの肘がそこにまだある |
奈良国立博物館賞 |
黄熟香香りを残し朽ちていく人も誰かに思い出残す |
読売新聞社賞 |
腕貫(うでぬき)のシミはわたしをはげましてもっと習字をがんばらなくちゃ |
読売テレビ賞 |
時過ぎて君がだんだん遠くなる迦陵頻伽(かりょうびんが)の優しい笑窪(えくぼ) |
セキ賞 |
宝物を観(み)た後残る充足感それが余韻と母がやさしく |
審査員特別賞 |
思い出にびわの模様が描いた竹このしおりはどの秋のもの |
優秀賞 |
何描こう?絵紙のキリン走りきて千年(ちとせ)過ぎたがまだ考え中 |
短歌 一般の部
最優秀賞 |
呼びかければたちまち応へる鳳(ほう)と凰(おう)に吾(われ)もなりたし臈纈(ろうけちの)あしぎぬ |
奈良国立博物館賞 |
瑠璃の坏(つき)坏いっぱいに水を張り月つかまえて月を楽しむ |
読売新聞社賞 |
正税帳(しょうぜいちょう)一字一字に暮らしあり車窓にうつる知らぬ町にも |
読売テレビ賞 |
院展は別行動と決めていて絵盤(えのばん)見入る妻に追いつく |
セキ賞 |
空白を恐るるやうに写経せり絹の腕貫すり切れるまで |
審査員特別賞 |
青斑の碩(すずり)を前に想(おも)い出す筆先を噛(か)み墨つけた祖父 |
優秀賞 |
ハリハリとはがしてみたき花びらの形のうつわ冷たくありて |
審査評 短歌
古代への想像力 (国学院大学教授 上野誠さん)
どんなに、昔のことであっても、私たちは思いを馳(は)せることができる。人は、想像力を持った動物なのだ。ジュニアの部の最優秀賞の渋谷さんの作品は、肘掛けのへこみに、人の気配を感じた作品である。一般の部の最優秀賞の大江さんの作品も、呼びかければ、鳳と凰がたちまちに応えるという。物を見るということは、見て感じることであり、感じるためには想像力がいるのである。私は今回も、応募作から多くのことを学んだ。ありがとう――。
遺された物に気配 (歌人 永田紅さん)
10回目を迎えた、本コンクールの短歌部門。この10年の間に短歌に詠まれた多くの宝物を思い出しながら、人に流れる時間、宝物に流れる時間に思いを馳せました。
肘掛けのへこみに、「あなたの肘がまだそこにある」と感じた渋谷さん。遺(のこ)された物の小さなへこみやシミが、人の気配を伝えてくれます。大江さんの作品、「鳳」はオス、「凰」はメスを指すそうですが、それらが絹織物の中からいきいきと現代の私達(たち)に呼びかけてくるようです。
(2022年2月27日付 読売新聞大阪本社版より掲載)