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2022年03月01日

正倉院展 短歌・俳句コンクール入賞作品発表(短歌の部)

正倉院展で感じたこと、宝物や天平時代への思いを詠む「正倉院展短歌・俳句コンクール」(主催・奈良国立博物館、読売新聞社、読売テレビ、協賛・セキ、協力・宮内庁正倉院事務所)の入賞作品と入賞者40人が決まった。短歌には一般とジュニア(小中高校生)あわせて999人から計1727首、俳句には1244人から計2180句の応募があった。応募作品は、正倉院事務所の西川明彦所長、奈良国立博物館の井上洋一館長らが審査した。

短歌 ジュニアの部

最優秀賞

肘掛けの少しへこんでいる所あなたの肘がそこにまだある
渋谷達弥さん(17) 大阪・上宮高2年

奈良国立博物館賞

黄熟香香りを残し朽ちていく人も誰かに思い出残す
永井そらさん(13) 茨城・常総学院中1年

読売新聞社賞

腕貫(うでぬき)のシミはわたしをはげましてもっと習字をがんばらなくちゃ
加藤美詞さん(11) 埼玉・吉川市立北谷小5年

読売テレビ賞

時過ぎて君がだんだん遠くなる迦陵頻伽(かりょうびんが)の優しい笑窪(えくぼ)
水野結雅君(14) 名古屋市立守山中2年

セキ賞

宝物を観(み)た後残る充足感それが余韻と母がやさしく
片山未悠さん(16) 大阪女学院高2年

審査員特別賞

思い出にびわの模様が描いた竹このしおりはどの秋のもの
岡田依美佳さん(13) 京都教育大付属桃山中1年

伎楽(ぎがく)面みたいな顔で寝る君の隣で眠る冬の温もり
東野礼豊君(13) 名古屋中1年

優秀賞

何描こう?絵紙のキリン走りきて千年(ちとせ)過ぎたがまだ考え中
鈴木心渚さん(17) 福島県立葵高2年

早袖の布目から風ふきぬけて東大寺までミシッと冷やす
時田弥子さん(10) 兵庫・小林聖心女子学院小4年

正倉院宝物見れば思い出す祖父がつくった琵琶の音色を
鶴見俊介君(13) 茨城・常総学院中1年

 短歌 一般の部

最優秀賞

呼びかければたちまち応へる鳳(ほう)と凰(おう)に吾(われ)もなりたし臈纈(ろうけちの)あしぎぬ
大江美典さん(36) 兵庫県西脇市

奈良国立博物館賞

瑠璃の坏(つき)坏いっぱいに水を張り月つかまえて月を楽しむ
渋谷知憲さん(20) 奈良県桜井市

読売新聞社賞

正税帳(しょうぜいちょう)一字一字に暮らしあり車窓にうつる知らぬ町にも
史織さん(29) 兵庫県尼崎市

読売テレビ賞

院展は別行動と決めていて絵盤(えのばん)見入る妻に追いつく
米谷茂さん(72) 神戸市

セキ賞

空白を恐るるやうに写経せり絹の腕貫すり切れるまで
上田倫子さん(72) 奈良市

審査員特別賞

青斑の碩(すずり)を前に想(おも)い出す筆先を噛(か)み墨つけた祖父
牛山公宏さん(49) 名古屋市

秋だから正倉院展行くんでしょタブレット見たままで子が言う
田中亜紀子さん(50) 津市

優秀賞

ハリハリとはがしてみたき花びらの形のうつわ冷たくありて
鈴木歌織さん(44) 愛知県豊川市

虫干しの時季こそ良けれ空色のセーター出して正倉院へ
大津瑞貴さん(23) 奈良県大和郡山市

秋色(しゅうしょく)を織りこみながら長斑錦(ちょうはんきん)肘をかけたる主の面影(すがた)
吉田洋子さん(66) 茨城県ひたちなか市

審査評 短歌

古代への想像力 (国学院大学教授 上野誠さん)

どんなに、昔のことであっても、私たちは思いを馳(は)せることができる。人は、想像力を持った動物なのだ。ジュニアの部の最優秀賞の渋谷さんの作品は、肘掛けのへこみに、人の気配を感じた作品である。一般の部の最優秀賞の大江さんの作品も、呼びかければ、鳳と凰がたちまちに応えるという。物を見るということは、見て感じることであり、感じるためには想像力がいるのである。私は今回も、応募作から多くのことを学んだ。ありがとう――。

遺された物に気配 (歌人 永田紅さん)

10回目を迎えた、本コンクールの短歌部門。この10年の間に短歌に詠まれた多くの宝物を思い出しながら、人に流れる時間、宝物に流れる時間に思いを馳せました。

肘掛けのへこみに、「あなたの肘がまだそこにある」と感じた渋谷さん。遺(のこ)された物の小さなへこみやシミが、人の気配を伝えてくれます。大江さんの作品、「鳳」はオス、「凰」はメスを指すそうですが、それらが絹織物の中からいきいきと現代の私達(たち)に呼びかけてくるようです。

(2022年2月27日付 読売新聞大阪本社版より掲載

正倉院展短歌・俳句コンクールホームページ