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【正倉院 モノ語り・コト語り】螺鈿紫檀五絃琵琶(2)
正倉院にまつわるモノ・ゴト、モノすなわち宝物とそれに関わるデキゴトや人が行なってきたコトを、宮内庁正倉院事務所の西川明彦・前所長に語っていただきます。
正倉院の楽器について、もっとも多い質問は「どんな音が鳴るの?」である。
五絃琵琶は捍撥の絃と絃の間にバチが当たって付いたスリ傷が残り、実際に演奏していたことがわかる。
平成の最後に宝物と同じ材料・技法・構造で再現した精巧な模造品を作って、音の再現も試みた。雅楽で耳にする四絃琵琶と比べて、高く軽やかな印象で、中央アジアやペルシアの楽器を連想させる音色であった。
唐代の詩人白居易(白楽天)は五絃琵琶について、中国古来のゆったりとしたリズムの音楽と違って、「金属的でかん高く騒がしい」と蔑んでいる。
正倉院の古楽器の楽曲については現代に伝わる雅楽の厳かな印象に寄せて考えられがちである。しかし、敦煌などの西域の壁画には激しく旋回するダンスの様子とともに五絃琵琶の奏楽が描かれていることがある。
雅楽は口伝で継承されるが、楽曲のテンポは古代から正確に伝わったのだろうか?ロックミュージックのような度肝を抜く音楽もあり、古代の人も惹きつけられたのではなかろうか?
半世紀前にビートルズが来日した際に批判的であった人々と白楽天が重なる。ただ、白楽天の琵琶のくだりには後日談があり、左遷された土地で琵琶の音を耳にした際に都を懐かしみ「もっと聞きたいなぁ」と心境の変化をうかがわせる詩を残している。
(前・宮内庁正倉院事務所長 西川明彦)
再現された模造 螺鈿紫檀五絃琵琶の音色は、宮内庁正倉院事務所ホームページ内の「模造事業」の紹介欄でお聞きいただけます。
https://shosoin.kunaicho.go.jp/about/reproduction/
前回のコラム:
【正倉院 モノ語り・コト語り】螺鈿紫檀五絃琵琶(1)