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2022年08月15日

【正倉院 モノ語り・コト語り】割れた鏡

前回、鎌倉時代に盗難を受けて鏡が割られたことを述べたが、昭和19年(1944)にも直径64cmを上回る正倉院最大の鏡(八角鏡 鳥獣花背 第1号)が真っ二つに割れた。

鳥獣花背八角鏡 第1号

鳥獣花背八角鏡 第1号

同鏡 戦前の姿

同鏡 戦前の姿


大仏献納時の目録『国家珍宝帳』に載る由緒正しい宝物で、中央の鈕(ちゅう)<つまみ>を挟んで鳳凰を置き、周りに鳥や獅子などを配する文様を鋳出す。

同目録には「八角鏡一面重大四十八斤八両 径二尺一寸七分...」とあり、長さも重さも換算することができる。長さの単位区分については以前にも触れたが、1尺約30cmは10寸、1寸は10分と十進法である。しかし、重さは厄介で、1斤(きん)が16両、1両は4分で、1斤は約670gとなる。

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国家珍宝帳(部分)4行目に本鏡の記載がある

太平洋戦争末期、空襲に備えた宝物の疎開作業中の出来事であった。33kgを上まわる重量物を一人で持ち運び、床に下ろす際に衝撃で割れたようである。

通常、宝物は二人以上で扱うが、平時でないことから起きた事故といえる。戦争がもたらす災禍は言うに及ばないが、このような間接的な事故も引き起こす。

戦後、毎年開催される正倉院展の際の梱包や輸送時にはこのような事故は起こっていないが、人の尋常ならざる緊張から事故が起こる可能性は絶無ではない。会場となる奈良国立博物館までは直線距離で1kmにも満たないが、いっさい気は抜けない。

なお、この事故についての詳細は平成7年(1995) 、正倉院展の戦後50年を振り返る読売新聞コラム「うらうらに」に当事者らのインタビューとともに掲載された。

(前・宮内庁正倉院事務所長 西川明彦)



前回のコラム:
【正倉院 モノ語り・コト語り】盗まれた鏡