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2022年11月02日
【正倉院 モノ語り・コト語り】伎楽
伎楽は中国の呉で学んだ百済の味摩之(みまし)という人が伝えた楽舞。奈良時代に寺院の法要に際し、しばしば奉納された。中国や朝鮮半島にとどまらず、ペルシャやインドの人の相貌や習俗などを表わす14種23面の仮面が用いられた。正倉院にはその伎楽面が複数セット伝わり、全部で171面を所蔵している。
仏教の布教や畏敬に繋がる教訓めいた内容ばかりかと思いきや滑稽劇の様相が目につく。たとえば、身分の高いペルシャ王が従者らと酔っ払って醜態を晒したり、高位のバラモン僧が自分の下着を洗ったりと、観ていた人達は大爆笑したことであろう。
さて、今年の正倉院展には「呉公(ごこう)」と「呉女(ごじょ)」という中国の高貴な人物と「力士」の3面が展示される。当時どのように演じたかは不明なものも多いが、「呉公」は笛を携えていることから、おそらく優雅に演奏する所作をしたのであろう。「力士」は寺院の入口で悪鬼を踏みつける尊像としてお馴染みのマッチョマンで「金剛」という相棒とともに登場する。「呉女」は「崑崙(こんろん)」という悪者によって露骨なセクハラ行為を受けるが、そこに「力士」と「金剛」が現われる。両名は阿吽(あうん)の呼吸で「崑崙」の陽物に縄紐を掛けて捕え、さらには振り回して打ち折ってしまうという手厳しい仕置きをする。
色欲に対する戒めであろうが、いつの世でも、いかなる場所でも、下ネタは大いに受けるのである。
(前・宮内庁正倉院事務所長 西川明彦)