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2022年10月21日

【正倉院 モノ語り・コト語り】白石鎮子(はくせきのちんす)

大理石製の分厚いレリーフ板で、二体の動物を組み合わせた図柄を表す。今年の正倉院展にはそのうち「寅と卯」「辰と巳」の二枚が展示される。

このように動物が絡み合う文様を「動物闘争文」と呼ぶ。その起源については諸説あるが、紀元前七世紀頃より黒海沿岸の草原地帯を中心に活躍した遊牧騎馬民族が好んで用いた。

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白石鎮子 寅卯

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白石鎮子 辰巳

このデザインが表された遺物は南ロシア一帯からアルタイ、シベリアにかけての内陸ユーラシア全域の、いわゆるスキタイ文化圏を中心に、西はドナウ川流域、東は朝鮮半島にまで広範におよぶ。

白石鎮子に表された動物は脚に翼様のものがみえ、頸には雲状のものがリボンのように絡むなど、ペルシアで生まれたデザインも施される。しかし、モチーフは十二支や四神といった中国のもので、北京付近より産出したと思しき大理石で作っていることから、中国製と考えられている。

裏面はいずれも粗削りのままで、そこには「須彼大馬」「阿斯大无沙」「秦司」「山伐一鳥」「山伐山伐」と意味不明の文字が墨で書かれている。「スキタイの馬」、「アスターナの砂」などと西域の語に漢字を当てたようにもみえるが、詳しいことはわからない。

さて、スキタイ文化圏は黒海の北側、つまり今のウクライナも含まれる。大理石の動物は闘争を終えることはないが、彼の地での争いはいつまで続くのだろう。

(前・宮内庁正倉院事務所長 西川明彦)



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