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2023年01月16日

【正倉院 モノ語り・コト語り】漆胡瓶(しっこへい)

鳥の頭をかたどった注ぎ口をもつ水差し。正倉院宝物のなかでも、ペルシアからの渡来品という印象がとくに強いものといえる。

確かに形のルーツは西アジアにたどり着くが、構造は東南アジア、装飾技法は東アジアという国際色豊かな宝物のひとつである。

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漆胡瓶

いまは黒い漆地の表面を飾る銀の文様も錆びて黒みを帯び、シックな雰囲気を醸し出す。製作当初は銀の薄い板で表した文様が所狭しと散りばめられ、黒地にギラギラと銀色の光沢を放つ賑やかな印象であったことが想像できる。

正倉院宝物が多くの人を魅了するのは、このようなエキゾチックな雰囲気によるところが大きい。しかし、本品の表面を飾る平脱(へいだつ)のデザインは螺鈿紫檀五絃琵琶の螺鈿と同じく空間恐怖症のように文様で埋め尽くされ、いまの日本人の好みとはかけ離れているともいえる。

さて、本コラムでは奈良時代の長さや重さなど、「度量衡」についてお勉強をして頂いてきたが、今回は容積「量(かさ)」。

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国家珍宝帳(部分)漆胡瓶の注記に「受三升半」とある

本品は『国家珍宝帳』に「三升半」と容量の記載がある。実際に水を注いで確かめることはできないので、かつて黍(きび)粒を入れて計測された。

それによると、奈良時代の1升は現在の720mlほどらしいが、この量の美酒ならば一夜で1升を空けることもできそうである。

(前・宮内庁正倉院事務所長 西川明彦)


前回のコラム:
【正倉院 モノ語り・コト語り】瑠璃壺(るりのつぼ)