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2023年03月20日

【正倉院 モノ語り・コト語り】玳瑁螺鈿八角箱(たいまいらでんはっかくばこ)

八角形の木製箱の表面に玳瑁、すなわち鼈甲(べっこう)を貼り、螺鈿で鳥や花の文様が表される。ばらばらに壊れていたが、明治28年(1895)に修理された結果、今の形がある。

①玳瑁螺鈿八角箱(軽).jpg

玳瑁螺鈿八角箱

実はこれと同じようなものが他にも三つあり、そのうちの一つは奈良の大和文華館に、もう一つはアラブ首長国連邦のアブダビにあるルーブル美術館の姉妹館にそれぞれ収蔵されている。

いずれも正倉院から流出した「兄弟」あるいは「双子」などの風評があるが、正倉院のものとは箱の作りがまったく異なった「赤の他人」である。

アブダビのものはかつて国内にあった時に別の一つとともに某所に蔵されていた。その際には模造である旨がその容器に記され、作った人や施主の名前が書かれていた。双方ともにオリジナルの宝物が修理されたのち、それに倣って奈良時代の製作当初を彷彿とさせるような仕上がりに作られたものである。なお、古色蒼然とさせた大和文華館のものも含めて3点とも、かつては実業家で衆院議員、古美術収集家として知られる武藤山治氏が所蔵していた。

②現大和文華館八角箱は展覧会目録に 「堀部亘哉氏模」と載る(『天平文化綜合大展覧会図録』1928より転載)(軽).jpg

現大和文華館八角箱は展覧会目録に 「堀部亘哉氏模」と載る(『天平文化綜合大展覧会図録』1928より転載)

ちなみにアブダビのものは平成21年(2009)に香港で開催されたオークションに5億円で競売にかけられていたようである。

製作者、施主ともにニセモノを作るつもりはなかったはずであるが、所蔵者が変わるうちに来歴がわからなくなったのか? わからないようにしたのか?

綺麗なものを真似したくなるのはしかたないが、本物に成り済ますのはいただけない。

(前・宮内庁正倉院事務所長 西川明彦)


前回のコラム:
【正倉院 モノ語り・コト語り】撥鏤尺(ばちるのしゃく)